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立石 泰則 著『戦争体験と経営』を読んで

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経済を専門とする職業ライターが書いたので読みやすく、さっと読めた。ただ書き手として

の技術の高さ故か、読み物として面白くするような技術を散りばめられているような気がして、専門家の著した本よりは重厚さには欠ける。しかし、著者もそれは意図しているだろうし、結果、引き込まれるような読書体験をすることができた。

 


戦地に赴いた経営者は、その体験から得た教訓や使命感を経営に活かし、独特の経営観を構

築した。戦争の体験は言語にあらわすことにできないほど悲惨で、当時、若輩の一庶民に過

ぎなかった後の名経営者達も、多くの帰還者と同じように生かされていることの申し訳無

さを感じたという。

 


その精神的なダメージは、帰還後にも完全に治癒することはできなかったのだろうと想像することは容易い。

 


その理由は、彼らと比べるのは僭越であるが私自身の体験によるものからである。過去の強烈な体験によって与えられた精神的なダメージは、悪夢やフラッシュバックによって鮮明に保持され続け、ちょっとした相手の行動も警戒してしまうようになり、時には気を失いかけるときもあった。文字通り人生を一変させた。

 


なにかの引用になるが、一度つけたぬか漬けは、もとに戻らないのと同じように、脳の思考

回路も変わってしまって、もとに戻らなくなるのだろう。

 


権力に振り回されてきた彼らの国家に対する猜疑心を私は、以前は冷めた目で見てきた。平和の社会に安住している中で、メディアがスキャンダラスな報道に終始している。そうした環境下におかれた政治家や官僚に対して、同情の念すら抱いていた私は権力に従順な人間だったのだろう。

 


しかし、自分が当事者となり、入社した企業など一個人では対抗できない大きな権力(他に

もあるだろう )に相当痛みつけられた後ならよく分かる。権力というのは保身のためなら

手段を選ばないのだ。

 


ちょっとしたきっかけで、権力に従順であった者にも、強権的な力が及んでくることは肝に

銘じておくことだ。

 


戦後日本は経済大国になった。その要因は様々であるが、戦争を体験した先人のその家庭をも顧みない労働と、彼らの技術革新に対する貪欲さは多いに経済成長に貢献しただろう。

 


臭い表現となるが、豊かな国を築いた先人の意志に反して、再び戦争への道を通ることは許されない。それなりに過酷な体験をしている中だからこそ、私はこの書に非常に共感できるのである。


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