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夏目漱石 作『道草』を読んで

『明暗』の前にこの作品があるのだなと思うと感慨深い。

筆者自身の環境の変化(入院と退院)がこの批評に影響をもたらしてるのは多分にあるが、本作品中盤から、人物描写がさらに透徹していき小説家としてまた違うステージに立っているような気がする。この小説家としての技巧の変化は『明暗』に引き継がれていったのだなという淡い感想を抱いた。

谷崎潤一郎は『明暗』を屁理屈を重ねたものだというような批判をしていたような覚えがあるが確かに受け入れることの出来る批判だ。

しかし各登場人物の行動を細部にまで理屈立てて行動原理を描写し、あたかも登場人物に対して絶対的な神のような存在になったかのように思えるまでの心理描写とそれ故の行動描写に私は『明暗』という作品に非常な感銘を受ける立場である。その前身を味わうという意味で『道草』は夏目フォロワーからしたら必読の書と言えるのではないだろうか。


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