メモとかを残さず読み進めるのでどうしても後半の部分が印象に残り、感想に反映される。
第3部の社会論で建築と社会の関わり方を論じているが、どのように建築と向き合っていくかであったり、建築を鑑賞するための方法論を提示し、素人でも独自の建築論を持つことが出来る参考になった。
そこで私も大阪という都市を題材にして、その都市の歴史や性格を反映する建築物は何だろうかと考えてみた。なお、1つの建築物という枠を超えて、1つの街並みも考察の対象にする。
大阪の都市の歴史を見事に反映しているものとして、私は、
江戸時代=船場センタービル
明治時代の繊維業の興隆から大大阪時代にかけて=あべのハルカスを中心とした天王寺地区から飛田新地地区
戦後の混乱期=大阪駅前ビル
以上の建物(地区)を私の無理矢理な解釈を駆使し、大阪の都市としての変遷を考察する題材とした。(自己満足であることは言うまでもない)
まず、船場センタービルであるが、阪神高速道路の下に業務、商業ビルを作るという都市としての無駄を無くすかのような発想は、近代的な先物取引を確立させた大阪商人の発想のダイナミックさと合理性を窺い知ることが出来る。そして改装前のあの地味な意匠は、淀屋の豪勢な生活からその失脚、そして都市としての安定期を迎え、無駄を排し質素倹約を旨とした大阪商人の信条を表現していると考えることも出来なくない。以上のように、船場センタービルは大阪商人のダイナミックさと合理性、質素倹約の信条の3つを見事に表現していると言える。現在の意匠も個性を際立たせず街に馴染むことができる優れた意匠であると言えるだろう。
建物が縦長、長方形の形となっており、整然とした区画で区切られてるのも評価のポイントだ。これは偶然の結果であるが、町屋建築を連想できるものになっているとは言えないか。
この現代の町屋の上に、現代的な公共インフラの代表とも言える高速道路が乗っかっているのが想像力を奮い立たせる。これは権力を支える縁の下の力持ちとしての大阪商人というアイコンになるのではないかと思えるのである。
船場センタービルには権力と共にあゆみ、表立った摩擦を引き起こそうとはしないが、時にはその力を利用してやろうという大阪商人のしたたかさを表現出来ているように感じられるのだ。
この界隈はあべのハルカスは最近できた建物であるので、歴史を忠実に感じられるという訳では無いが、大阪の第2の全盛期である明治の繊維産業の興隆から大大阪時代の光陰を表現出来ているのではないかと思うのである。
あべのハルカスを中心とした天王寺地区は再開発によって、人を呼び込む華やかな街として磨きがかかった。あべのハルカスはそれを象徴する建物でしばらくは日本一の高さを誇り天王寺地区のランドマークとなっている。これが光の部分だ。
しかし、少し足を進めると色町としての飛田地区があり、現在も営業を続けている。この光のあべのハルカスと陰の飛田新地の存在が当時の繊維産業の興隆の際に起こったコントラストを表現しているのではないかと思うのである。
当時の、女工の犠牲(実際には女工の待遇は改善されていったらしいが)による繊維業の興隆は東洋のマンチェスターと呼ばれる大阪の繁栄をもたらした。しかし彼女達は表舞台には出ることはなく、歴史に名を残すのは高等教育を受けた男性実業家であった。超高層ビルというのは権威的で男性的であると私は思う。あべのハルカスという著名な建築物という男性的なものは日の目を浴び名を残すが、日陰の存在にならざるを得ない飛田新地の存在はわかりやすいコントラストになっていると言えないだろうか。
そしてその中間に大阪公立大学の病院があるが、この病院の存在は考えようによっては何らかの示唆を与えるものになっていると言えよう。
戦後の混乱期の表現としての大阪駅前ビルは上記二つとは違い、そこまで無理やりな解釈では無い。
当時大阪駅前ビルのあった土地は闇市があったという。建物自体も都心部にありながらその名残からか立派な割には何かと陰鬱さを感じられる。実際に大阪駅のランドマークになっているとは言えないだろう。
だがそういった場所に人は集まるのだ。それは大阪駅前ビルの持つ雑然さ、混沌さが最新の都市工学を超越した人の本能として惹き付けられる魅力を持っていると言えるからでないか。
それは交通の拠点に人が集まり、自然に市場ができる人間本来の性によって都市が産まれるという都市の誕生の根源を見ることができるからかもしれない。
段々、竜頭蛇尾の感が出てきたが、以上が私がこの本を読み、その後考察した大阪の街並み観である。
このように無理やりな解釈をし意味を与えたら、そこまで脚光を浴びない建物でも歴史を感じられて中々面白い。そのような意味で、今回の読書は非常に有意義なものとなった。好きな街の一つである大阪の多様性にも理解を深めることができた気がする。
最後になるが、現代または近い将来の大阪の趨勢を占う再開発として容易に浮かぶのがうめきただろう。大阪の将来の命運や都市像はうめきたの成否によって変わっていくような気がする。