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東京証券取引所の改革は金融ショックに対する脆弱性をもたらさないか

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 東京証券取引所が昨年から、市場改革としてプライム上場企業に対し、PBR一倍以上の財務改革を要請しています。昨今の株高の要因は様々ですが、これに対する企業の取り組みが海外投資家に評価されて海外から資金が流入しているのも一因でしょう。
 
 PBR一倍を達成するためにはROEの改善が必要で、昨今のトレンドは政策保有株を売却するアナウンスをすると株高の要因になると言います。政策保有株は戦後、日本企業が外資に乗っ取られることを危惧した産業界が積極的に推進していましたが、グローバル化の現代では時代遅れの慣習であり、資本の有効利用を求める株主の要請には逆らえず、今後ますます削減していくでしょう。
 
 政策保有株はいいとして、ROEを高めるためには自己資本を減らし、負債を増やすというレバレッジを効かした経営が求められます。実際にアメリカと日本の代表的なトイレタリーメーカーであるP&Gと花王を比較してみると格付けはほぼ同等ですが、直近の決算での自己資本率はP&Gは38.71%(ちょっと間違えてるかも)、花王は55.58%と同業種ながら大きな違いがあります。自己資金や担保となる証券の保有を少なくして、(負債で集めることもできますが意味あるでしょうか?)、金利以上のお金を稼ぐことを求め、配当をできるだけ多く得ることが機関投資家にとっての存在意義なのでしょうが、金融ショックが起こった場合、どのような結果が産まれるのでしょうか?
 
 企業の設備投資の際、最もコストを低く投資するには自己資金を活用することとされています。情報の非対称性により第三者からお金を集めるとなると追加のコストが求められるからです。また国債といったような安全資産を担保にすることは設備投資を円滑にすることの有効性が理論化されています。そのため、企業が余裕資金を持つことは企業なりの合理的な考えなのです。金融ショックが起こった際には企業の設備投資は個人消費に比べて減少率が高い傾向があり、豊富な自己資金はそれを軽減することができるのです。(詳細は二神・堀のマクロ経済を参照してください)

 

 

 では、アメリカでは金融ショックの際どういった対応をとったのかというと、例えばコロナショックの際には、非常に大胆な金融政策と、財政政策で企業を支え、そのショックを乗り越えました。日本企業もこれからアメリカ式の財務政策をとっていくとしたら、金融ショックの際、日本政府がより大胆な救済策をとっていかなければならないでしょう。日本の厳しい財政状況はそれを制約的にするかもしれません。しかし、金融ショックの際には安全資産である国債に需要が集中するので、短期的なやりくりは可能であると私は見ています。ただ短期的に乗り越えても、日本は長期的には少子高齢化により経済低迷を見込まれ、長期的な国債の価値の維持のためにはそのショック後にかなり痛みを伴う財政改革が必要になるのではと思います。現在の円安とインフレは税収増をもたらしているのにもかかわらず、同時に実質賃金の低下をもたらしているのはその例かもしれません。

 

 では日本の政治家にそれをやってのける胆力があるかというとなかなか厳しい評価を下さざるを得ません。政治家自身が痛みを被ることによって国民に協力を求めることはコミュニケーションとして必須だと思いますが、政権与党の政治家にはその気配が全く見受けられないからです。


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