この書がアメリカの制裁手段としてドル決済の停止の有効性、その影響力をわかりやすく著された良書なのは確かだ。
アメリカがドル決済の停止による金融制裁を多用し始めたのはオバマ政権以降であり、トランプ政権になると武力行使を忌避する自身の意向から無秩序に乱発された。政権ごとに一変する外交方針の一貫性のなさから制裁の効果も今一つで、中国やロシアなどドル離れを模索する国の行動が活発化している。かなり端折ったがそのような内容だ。
ただこの書の目的が制裁外交の弊害を素にトランプの批判のみに帰結するというものなら、現状を考慮すると疑問符がつく(この書は2020年初版なのでバイデン政権の政策は未知である)。
以前、日経を読んでいたが、数ある記事の中で FTの日本語訳の記事がおぼろげながら印象に残っている(どっちだ)。
バイデン大統領が中国の封じ込めを意識した新しいワシントンコンセンサスを提唱した。新しいコンセンサスは、自国産業の保護、育成を目指す保護主義色の強い内容となっている。レーガン政権が旧コンセンサスで提唱した関税の撤廃などを行い、グローバリズムの進捗を目指すというものから一変されたのだ。
結局バイデン政権もトランプが行った保護主義政策を撤廃できず中国を押さえ込んでいく方向となったわけだ。
それは冷戦崩壊後の開かれた市場、グローバリズム化という指針を示したレーガンのようにトランプは保護主義への転換という新しい方向性を結果的に示したことになり、バイデンはそれに追従した形になる、という内容だった。
結局、アメリカ国民の中国に対する嫌悪感から現政権も制裁を実行しているがこれが不確実性の上昇を招き、残りの世界も巻き込まれている形になっている。
トランプを徹底的に批判していたリベラル系メディアは、同じ政策を行っている現政権に対してはやはりと言うべきか批判に及び腰になっている。また息子のハンターバイデンの疑惑に対して、例えばPBSでは論点をずらしたかのような報道がされるなど、まるでバイデン応援団のような様相だ。メディアは頼りにならない。外交活動においても、現在の不確実性を解決するような動きはあまり活発では無いように思える。
米国メディアの党派性で物事の善悪を判断する報道姿勢は、結局アメリカの民主主義国家としての行き詰まりのひとつの原因なのではないかと思ってしまう。
話がかなりズレていったがこの書の後半にも著されていたようにアメリカは超大国としての責任を全うすることが困難になっている。ドルの離反を招くのを一つの契機として多極化に向かっていくのだろうか。それとも中国と一戦交えて覇権国としての地位を再び強化していくのか…(2023/10/16)